王様も文学者もコインが大好き!歴史に残るコインのコレクターたち

王様も文学者もコインが大好き!歴史に残るコインのコレクターたち

 

スタッフのひとことナビ
A.Harada(コイン歴3年)
今回は、コインがどんな人たちに、どんな形で受け継がれてきたのかをたどるコラムなんですね。
これまで、コインは美しさや歴史的な価値に惹かれて集めたり、シリーズとして揃えたりしてきましたが、歴史上の人物たちも同じようにコインに惹かれていたと知ると、思っていた以上に興味を引かれました。
では、コインと人の歴史を、順に見ていきましょう。

 

 

コインの収集は、歴史や美術を知ることができる趣味。さまざまな時代背景にまで思いをはせることができるところが魅力です。コインコレクターには、歴史に名を残す有名人も大勢いました。「コインを収集する」という概念がいつ生まれたのかも含めて、歴史に残るコインコレクターたちをご紹介します。

 

 

「コイン収集」が生まれたのはルネサンス時代

古代の皇帝や君主は、各地で発行されたコインを、戦利品という意味でコレクションしていました。コインコレクションが「王の趣味」「趣味の王」と呼ばれる理由は、古代のこうした風習にもあると考えられます。それに対して、「過去のコインを収集する」という趣味が生まれたのは、ルネサンス時代のことです。なぜルネサンス時代だったのかも含めて、コイン収集の歴史を簡単に解説します。

 

クエンティン・マサイスが描いた『両替商とその妻』。16世紀のコインを見ることができます。1514年制作、ルーヴル美術館所蔵(画像出典:Wikimedia Commons)。

 

 

「古代の文明を見直そう!」という風潮によって誕生

「ルネサンス」とは「再生」を意味します。なにが「再生」したのかといえば、ヨーロッパの中世にタブー視されてきた古代文明の価値。キリスト教の力が強かった中世の時代、多神教の古代の遺産は軽視されるだけではなく、それに触れたり語ったりすることを禁止されることもありました。しかし14世紀ごろ、古代文化のすばらしさに目を向ける動向がヨーロッパ各地に広がりました。ギリシャやローマの古典研究から普遍的な教養を身につけることは、人文主義と呼ばれるようになります。それまで忘れられてきた書物や美術品に加え、古代のコインも注目を集めることになったのです。

 

 

コイン収集はエリートたちの趣味へ

コインには、当時の権力者の肖像やシンボルがデザインされていることが大半。文献に欠けている肖像画も、コインを見ることでイメージが明確になります。ルネサンス時代に生まれたコイン収集の趣味は、それを入手できる財力があり、歴史や美術を理解できるエリート層の間に急速に広がっていきます。

コインコレクターのことを「ヌミスマティスト(numismatist)」とも呼びますが、ラテン語の「nomisma(貨幣)」という言葉に由来します。古代ギリシャやローマをはじめとする文化圏では、数多くのコインが発行されてきました。

古代の思想や文化を理想としたルネサンスのエリートたちにとってコインの収集は、物的な意味だけではなく、知的好奇心を満たしてくれる趣味だったのです。

 

 

文学者も大富豪もコインコレクター!

コイン収集という概念が生まれたルネサンス時代。コレクターの先駆けとなった人たちをご紹介します。

 

1480年ごろにハンス・メムリンクが描いた『ローマのコインを持つ男性』。手にしているのは皇帝ネロの時代のセステルティウス銅貨。人文主義への関心を示すシンボルとして描かれました。アントワープ王立美術館所蔵(画像出典:Wikimedia Commons)。



ペトラルカ(1304~1374)

パドヴァのリヴィアーノ宮殿に描かれたペトラルカ。彼は古代文化に傾倒し、膨大な量の書籍を収集、コインコレクターとしても有名です(画像出典:Wikimedia Commons)。

ダンテ、ボッカッチョと並び、イタリア文学の父と呼ばれているペトラルカ。彼は自ら文学作品を生むだけではなく、古代ギリシャやローマの写本の収集家であり、歴史的なビブリオフィリア(愛書家)として名を残しました。 コインの収集も、ペトラルカにとっては古代文化を知るための一手段。金や銀の物理的な価値ではなく、コインに残された文化的な価値を重視しました。

 

 

ロレンツォ・デ・メディチ(1449~1492)

17世紀の中ごろに描かれたロレンツォ・デ・メディチと文化サークルのメンバーたち。フィレンツェの大富豪として有名なロレンツォ・デ・メディチは、文化のパトロンとしても有名でした。オッタヴィオ・ヴァンニーニ作、ピッティ宮殿所蔵(画像出典:Wikimedia Commons)。

ルネサンスの都フィレンツェの大富豪といえばメディチ家。メディチ家の最盛期を築いたのが、「偉大な人(il Magnifico)」という敬称つきで呼ばれるロレンツォです。 彼は古代に関連する書物だけではなく、カメオや宝石、コインを収集し、後世のコレクターたちの模範となったことでも有名。「ロレンツォ」のラテン語名「Laurentinus」の名を遺品に刻んで、古代の遺品を実際に使っていたという豪快なエピソードを残します。 ロレンツォは古代コインの歴史的価値を認め、カタログ化していたことでも知られています。コレクターとしての在り方を後世の人たちに示した知識人でした。

 

 

コインコレクターとして有名な王と女王

ルネサンス時代から始まったコインの収集。やがてそれは、王侯貴族たちに愛される趣味となりました。彼らのコレクションは現在、各地の美術館や博物館で見ることができます。コインコレクターとして有名な王や女王についてご紹介します。

 

(画像出典:AdobeStock)。

 

 

神聖ローマ皇帝カール5世(1500~1558)

1548年にティツィアーノによって描かれた神聖ローマ皇帝カール5世の肖像。ミュンヘンのアルテ・ピナコテーク所蔵(画像出典:Wikimedia Commons)。

結婚政策によって領土を広げ、植民地政策によってグローバルな帝国の君主となったカール5世(スペイン王としてはカルロス1世)。「日が沈むことがない帝国」と呼ばれた広大な領地を統治していた彼は、自らの正統性を裏付けるために古代のコインを収集していたといわれています。皇帝のコレクションの一部は、マドリッド国立考古学博物館などに伝わっています。

 

 

フランス王ルイ14世(1638~1715)

古代の神ユピテルに扮した10代のルイ14世。チャールズ・ポーソン作。古典的なスタイルは王政の正統性を表していました。ヴェルサイユ宮殿所蔵(画像出典:Wikimedia Commons)。

太陽王として有名なルイ14世も、歴代のフランス王の例にもれず、古代のコインをコレクションしていたといわれています。ルイ14世が生まれたころのフランスは、古代の文化への心酔が著しい古典主義の時代。重厚なスタイルは王侯貴族の間でも流行し、ルイ14世もクラシカルな衣装の肖像画を数多く残しました。絶対王政を布いたルイ14世は、広大な帝国を統治した古代ローマ帝国の皇帝に自らの姿を重ねていたといわれています。古代世界への憧れが、コインの収集につながったのかもしれません。ルイ14世をはじめとする歴代のフランス王が収集したコインの多くは、現在、フランスの国立図書館に所蔵されています。

 

 

スウェーデン女王クリスティーナ(1626~1689)

学芸を愛し、哲学者デカルトなどとの交流も深かったスウェーデンのクリスティーナ女王。古代の遺物のコレクターとして有名で、コレクションの多くはバチカン美術館に残されました(画像出典:Wikimedia Commons)。

6歳でスウェーデン女王となったクリスティーナは、7か国語を操る才女でした。統治者として政治に興味が持てず、婚約者であった従兄との結婚を辞し、1654年に退位。その後の人生の大半をローマで送り、古代の研究や遺物の収集を趣味としていました。ローマに移住後は各地に代理人を送り、掘り出し物を探していたと伝えられています。コインは単なる財産としてではなく、研究対象として学者たちに公開していたという記録が残っています。 独身のままローマで没したクリスティーナ女王のコインコレクションの大半は、現在はバチカン美術館で見ることができます。

 

 

イタリア王ヴィットーリオ・エマヌエーレ3世(1869~1947)

近代におけるもっとも有名なコインコレクター、ヴィットーリオ・エマヌエーレ3世の5リラ銀貨(画像出典:Wikimedia Commons)。

近代の王の中でコインコレクターとして有名なのは、イタリア王ヴィットーリオ・エマヌエーレ3世。幼いころからコインに興味を持ち、生涯を通じてコレクターとして有名でした。古代ギリシャやローマに加えて、ビザンツ帝国や中世のコインが10万点以上もあったといわれています。研究を重ねた王は『Corpus Nummorum Italicorum(イタリア貨幣総覧)』という本まで著したほどでした。彼の膨大なコインコレクションは、王政が廃止されたあと、イタリアに寄贈されました。そのすべてを見ることはできませんが、ローマにある国立博物館で一部が鑑賞可能です。

 

 

知識層を魅了し続けたコイン、小さな1枚に潜むさまざまな歴史を楽しもう!

コインが財産としてだけではなく、教養ある人々の興味の対象となり、コレクションされるようになったのはルネサンス時代のこと。 以後、コインは多くの文学者や王侯貴族たちに愛され、収集されてきました。その魅力は、今も変わることなく続いています。

ぜひ1枚1枚に潜むさまざまな歴史を感じてみてください。

 

グロッタフェッラータで行われた中世祭りで並べられたコイン(撮影:PRIME MINT)。

 

 

スタッフのひとことコメント
A.Harada(コイン歴3年)
新たな発見も多く、楽しく読み進められる内容でした。
これまではコインの美しさや歴史に目が向きがちでしたが、歴史上のコレクターたちの存在を知って、また違った面白さも感じられそうです。
次にコインを見るときは、誰が手にしていたのだろう、と気軽に想像しながら眺めてみるのも楽しそうですね。
いつもとは少し違った面白さが、ふと見えてくるかもしれません。

 

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