バレンタインデーの起源は聖人信仰?コインにデザインされるカトリック教会の聖人とは

バレンタインデーの起源は聖人信仰?コインにデザインされるカトリック教会の聖人とは

 

スタッフのひとことナビ
S.Mori(コイン歴3年)

今回は、コインに描かれている人物の中でも、どこか身近でありながら少し遠い存在にも感じられる「聖人」に目を向けていくコラムなんですね。
名前としては耳にしたことがあっても、その背景や役割までは意外と知られていないことも多く、コインの中に込められた意味をあらためて考えるきっかけになりそうです。

普段何気なく目にしている聖人像も、その成り立ちや人々との関わりを知ることで、少し違った印象で映ってくるかもしれませんね。
そんなところにも思いを巡らせながら、読み進めてみてください。

 

 

ヨーロッパのコインには、聖人が描かれているものが数多く存在します。
有名なイギリスの聖ジョージをはじめ、フィオリーノ金貨の聖ヨハネやドゥカート金貨の聖マルコなど、国や都市を守護する聖人たちがデザインされているものが多数あります。

キリスト教の聖人とはいったいどのような存在なのでしょうか。
楽しいエピソードとともに、キリスト教会の聖人について解説します。

 

イギリスのコインにデザインされることが多い聖ジョージ(ゲオルギウス)。ラファエロ作(画像出典:Wikimedia Commons)。

 

 

そもそも、聖人とは何か、守護聖人とは何か

キリスト教における「聖人」とは、神そのものではなく、信仰の模範とされた人間を指します。殉教や伝道、信仰に基づく生き方などによって人々の尊敬を集め、カトリック教会によって正式に認められた存在です。ちなみに、プロテスタント教会では聖人の存在を認めていません。

聖人として有名なのは、新約聖書の福音書を書いたマタイ、マルコ、ルカ、ヨハネ、アウグスティヌスやトマス・アクィナスなどの宗教思想家、修道会の創始者フランチェスコなどがいます。日本に関連する聖人には、キリスト教をもたらしたフランチェスコ・ザビエルのほか、16世紀末に豊臣秀吉の迫害によって殉教した26聖人などがいます。

その中でも、特定の国や都市、人々、職業などを見守る存在として信仰されてきたのが「守護聖人」です。守護聖人は地域の歴史や文化と深く結びつき、日本の氏神信仰に近い感覚で受け止めると分かりやすいかもしれません。

カトリック教会では、生まれた子どもが洗礼を受けるには聖人の名前であることが大前提となっているため、名前が国際化した現代でも、洗礼名を戸籍に入れるという習慣が今でも残っています。

こうした背景から、守護聖人はコインのデザインにも数多く採用されてきました。

 

 

バレンタインデーは聖人の祝日!キリスト教会の聖人とは

日本でもよく知られているバレンタインデー。
実は2月14日は、イタリア出身の聖人ヴァレンティヌス(英語ではバレンタイン)の祝日です。聖ヴァレンティヌスは恋人たちの守護聖人であると同時に、てんかんの患者さんや腹痛に苦しむ人を守ってくれる守護聖人でもあります。

カトリック教会には、こうした聖人が1万人以上存在します。
聖人はどのように決められているのでしょうか。

 

16世紀後半、ヤコポ・バッサーノによって描かれた聖ヴァレンティヌス(画像出典:Wikimedia Commons)。

 

 

バチカンによる聖人の認定

キリスト教会の聖人を認めているのは、主にカトリック教会とギリシャ正教会。プロテスタント教会の多くは、聖人を認めていません。

カトリック教会の聖人は、バチカンの列聖省によって認定されています。殉教した人、奇跡を起こした人(その奇跡もバチカンから正式に認定される必要があります)、伝道において歴史に残る徳を積んだ人、などがその対象です。

列聖省において聖人に認定されると、バチカンの典礼秘跡省によって「何を守護するか」が決定されます。守護の対象は、国や都市だけではなく、職業などにも及びます。20年ほど前には、プログラマーの守護聖人が認定されたことで話題になりました。プログラマーを守ってくれる聖人は、スペインのセヴィリア出身の聖イシドロス。彼は『語源』という辞書の著者として、膨大な知識を整理・体系化した人物として知られています。こうした「情報を整理し構造化する役割」が、現代のプログラマーと重ねられ、守護聖人に選ばれました。

 

 

日本の氏神信仰に似ている?

カトリックを国教とする国々では、自分の町を守護する聖人への思い入れが非常に深いという特徴があります。聖人の祝日は町中が休業し、宗教行列が町を練り歩き、教会で儀式が行われます。子どもが生まれると町の聖人の名前を付けることが多く、ナポリにはジェンナーロさん、フィレンツェではジョヴァンニさんという人があふれています。

地域を守護してくれる聖人を大事にする、という風潮は、ちょうど日本の氏神信仰に似ているかもしれません。また受験の前には学問の神様の天神様を拝み、商売繁盛を祈ってお稲荷さんに参拝するという風習も、病気の快癒や旅の無事を祈ってそれぞれの聖人に祈る姿に似ています。

 

 

増えすぎた聖人をリストラ!

郷土密着型が多い聖人たち。実態がつかめないケースも多数あります。
増えすぎてしまった聖人を管理しきれず、バチカンは過去に何度か聖人のリストラを行いました。

バチカンはまず、「1つの教会が信奉する聖人は1人だけ」を原則にしました(あくまで原則であって、現在も複数の聖人を祀っている教会はあります)。さらに「カリスマ性」だけで人気のある聖人もリストラ。
とくに有名なリストラは、1973年に教皇パオロ6世によって行われた制度改革によるものです。しかし、民衆たちに絶大な支持を得ている郷土の聖人たちは、バチカンからのお墨付きを失ってからも人気を保持。公式な典礼や祝日からは外されたものの、地域の祭礼や民間信仰の中では、従来どおり守護聖人として敬われ続けています。

バチカンが認めた聖人には、それぞれ祝日が定められています。しかし365日では足りないため、11月1日に「諸聖人の日の祝日」として祝日を持たない聖人をまとめてお祝いすることになっています。

 

ローマにあるサンタ・プラセーデ教会。聖プラセーデは1969年に「存在確認ができない」として典礼暦から外されましたが、教会はそのまま残っています(画像:PRIME MINT)。

 

 

最後に

こうして見てくると、聖人とは単なる宗教上の人物ではなく、地域の歴史や人々の信仰、文化と深く結びついた存在であることがわかります。
聖人信仰は教会の中だけにとどまらず、絵画や建築、祝祭、そしてコインのデザインにまで反映されてきました。それらの聖人像は、装飾というよりも、その土地がなにを大切にしてきたのかを伝える、小さな歴史の断片といえるでしょう。

それでは、コインや美術作品に描かれた聖人たちは、どのような姿で表されているのでしょうか。
ドラゴンを退治する騎士、鍵を手に天国を象徴する人物、ライオンや剣とともに描かれる姿。
そこには必ず理由と物語があります。こうした「決まりごと」を知っていると、名前が分からなくても、描かれた姿からその正体を読み解くことができるようになります。

次章では、主要な聖人たちを取り上げながら、コインや絵画に描かれた姿と、その見分け方のヒントを紹介していきます。

 

 

スタッフのひとことコメント
Mina Yoshii(コイン歴2年)

聖人という存在が、宗教の中だけにとどまらず、地域や人々の暮らしに深く結びついてきたことが、ゆっくりと伝わってくる内容でした。

コインに刻まれた姿も、ただの装飾ではなく、その土地の願いや歴史の積み重ねのようなものが重なっていると感じると、見え方が少し変わってきますね。

これからコインを見るときには、その人物がどんな思いでそこに描かれているのか、あるいはどんな役割を担っていたのかを、そっと想像してみるのも良さそうです。
ふとした瞬間に、これまでとは違った発見があるかもしれませんね。

 

一覧に戻る