オランダ女王ウィルヘルミナ|年齢とともに変化する金貨のデザイン
今回は、オランダ女王ウィルヘルミナの金貨を通して、ひとりの人物が年齢を重ねていく姿をたどっていくコラムなんですね。
同じ人物のコインでも、時代ごとに表情や雰囲気が少しずつ変わっていくのは、あらためて見比べてみるととても印象的でした。
幼い少女の横顔から、落ち着いた円熟期の肖像へ。
その変化の背景には、女王自身の人生だけでなく、時代そのものの空気も重なっているように感じます。
コインを「一枚の歴史」として眺めながら、ゆっくり読み進めてみてください。
ウィルヘルミナはオランダの女王で、父の死を受けて1890年に即位しました。
当時の年齢はわずか10歳です。
その後、2度の世界大戦を挟んで1948年まで在位し、長女に国王の座を譲っています。
在位期間は60年近くに及ぶので、コインの肖像画も徐々に変化していきます。
肖像の変化を眺めて時の流れを感じてみましょう。
❖ウィルヘルミナの4種類の金貨
ウィルヘルミナの時代に、金貨は4種類発行されました。
ガールヘッド(Girl Head)

1897年 オランダ ウィルヘルミナ 10グルデン金貨(画像出典:日本コインオークション)
1897年発行の金貨で、ガールヘッド(Girl Head)と呼ばれることもあります。
当時の年齢は17歳ですが肖像は5年以上前のもので、日本の感覚で言えば小学生の姿です。
髪は長く、幼い雰囲気がよく出ています。
肖像の周りに書かれている言葉は「koningin wilhelmina god zij met ons」で、「ウィルヘルミナ女王・神が我らと共にありますように」という趣旨です。
なお、ウィルヘルミナは若かったので、実際の政務は母親が摂政として実行していました。
青年期(Coronation Ten)

1898年 オランダ ウィルヘルミナ 10グルデン金貨(画像出典:Heritage Auction)
青年期のコインは1898年の単年発行です。
年齢は10代後半で、ガールヘッドとは雰囲気が大きく異なる様子が分かります。
髪型だけでなく、顔立ちも変化しています。
1898年はウィルヘルミナが18歳を迎えて親政を始めた年で、就任式が行われました。
従来のコインの肖像は若すぎたこともあり、親政開始にあわせてデザインも変更されたという経緯です。
ティアラを身につけているだけでも、雰囲気が引き締まった感じがします。
なお、就任式に発行されたことを受けて、このコインは「Coronation Ten」(就任式の10グルデン金貨)と呼ばれることもあります。
成人(Mature Head)

1911年 オランダ ウィルヘルミナ 10グルデン金貨(画像出典:Heritage Auction)
成人してからもコインが発行され、上は1911年のものです。
2枚目のコインと似ていますが、よく見ると、わずかに異なることがわかります。
全体的に、18歳から30歳への成長に伴って落ち着きが増しているようです。
老齢期(Old Head)

1925年 オランダ ウィルヘルミナ 10グルデン金貨(画像出典:Heritage Auction)
老齢期のコインはオールドヘッド(Old Head)と呼ばれ、1925年に発行されました。
名前はOld Headですが当時の年齢は40代半ばで、老齢と呼ぶには早すぎる年齢です。
日本語的には、円熟期と表現するほうが適切でしょう。
なお、ウィルヘルミナの在位は1948年までであり、1925年から1948年までの間にもう1種類か2種類くらい発行されていてもおかしくないように感じます。
金貨が新たに発行されなかった理由として、世界情勢の変化が挙げられます。
1929年の世界大恐慌を契機に世界経済の仕組みが変わり、金本位制を停止する国が続出しました。
オランダは1936年に金本位制から離脱しており、通貨としての金貨は発行されなくなりました。
日本でも1931年に金の輸出を禁止し、その後に金兌換を停止して管理通貨制度に移行しています。
裏側のデザイン

1925年 オランダ ウィルヘルミナ 10グルデン金貨(裏面)(画像出典:Heritage Auction)

1925年 オランダ ウィルヘルミナ 10グルデン金貨 裏面デザイン図(画像作成:PRIME MINT)
裏側のデザインを見ると上側に王冠があり、オランダは王国であることが分かります。
その下には盾が描かれ、1頭のライオンが剣と7本の矢の束を持っているのが特徴的です。
7本の矢には意味があり、ネーデルラント独立戦争(オランダの独立戦争)までさかのぼります。
1500年代のネーデルラント(オランダとベルギーを含む地域)はスペインの支配下にあり、1500年代後半に独立戦争が勃発しました。
北部7州は結束してユトレヒト同盟を結成して独立を勝ち取り、オランダとして現在に至ります。
束ねられた7本の矢は7州の団結力を示しています。
現在のオランダには12の州があります。
州を分割したり、海を埋め立てて新しく州を作ったりしたためです。
コインの周囲の文字は「Koninkrijk der Nederlanden」で、オランダ王国という意味です。

1807年 オランダ ユトレヒト 小文字年号(Small Date) 1ダカット金貨(画像:PRIME MINT)
なお、上の金貨は1807年にオランダ・ユトレヒトで発行された1ダカット金貨です。
この金貨にも7本の矢が描かれており、オランダにとって7本の矢が重要であることがわかります。
❖全4種を集める難易度
コインのグレードを気にしないなら、入手難易度は高くないと言えるでしょう。
ウィルヘルミナの10グルデン金貨は流通貨幣として作られたので、発行枚数はとても多いです。
| 名称 | 発行年 | 発行枚数(概数) |
| Girl Head | 1892年、1895年、1897年 | 45万 |
| Coronation Ten | 1898年 | 10万 |
| Mature Head | 1911年~1913年、1917年 | 890万 |
| Old Head | 1925年~1927年、1932年~1933年 | 1,228万 |
しかし、高グレードのコインの収集については、簡単というわけではありません。
10グルデン金貨は日々の支払いで使用されたので、コインは摩耗しています。
高グレードとはすなわち流通しないで大切に保存されてきたという意味であり、高グレードの4種類を集めるには相応の時間がかかるでしょう。
とはいえ、発行枚数が多いのは事実なので、何かの金貨を全種類集めたいという場合に挑戦しがいのあるシリーズだと言えます。
金貨としては価格が手頃なのも魅力の1つです。
なお、1892年と1895年の10グルデン金貨は別格で、発行枚数が極端に少ないです(1892年は61枚、1895年は149枚)。
それに対して、1897年は45万枚。
この2種類だけは他のコインと比べて価格が桁違いに高く、入手難易度はとても高いです。
価格が高いというだけでなく、買うチャンスを待ち続ける忍耐力も求められます。
一般的な商品と異なり、アンティークコインを買えるチャンスは「現在の保有者が売りに出したとき」だけです。
レアコインを忍耐強く探し続けるのは大変な作業です。
オークションは世界中に散らばり、日本語でオークションに参加するわけにもいきません。
特定のアンティークコインを買いたいけれど自分で探すのは難しいという場合、Prime Mintがお手伝いします。
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❖ウィルヘルミナの時代のオランダ
最後に、ウィルヘルミナの時代を振り返ってみましょう。
ウィルヘルミナの治世は1890年から1948年までの58年間で、オランダ史上最長の在位期間として記録されています。
経済面では産業革命が本格化し、ロッテルダム港の拡張など近代国家へのインフラ整備が進んだ時代です。
また、第一次世界大戦と第二次世界大戦を経験した女王でもあります。
第一次世界大戦では武装中立を堅持して戦火を免れたものの、第二次世界大戦ではドイツに占領されました。
女王はロンドンへ亡命して亡命政府を樹立し、ラジオ放送で国民に抵抗と団結を呼びかけ続けたことが知られています。
1945年の解放後は帰国して復興を指揮したものの、植民地インドネシアの独立戦争に直面し、1948年に退位して娘のユリアナへ王位を譲りました。
同じ女王のコインを並べて見ているだけなのに、どこか人物伝を読んでいるような感覚もあって、不思議と印象に残る内容でした。
肖像の変化には、その時々の時代背景や立場の変化まで自然と表れているようで、コインという小さな世界の奥深さをあらためて感じますね。
特に、若い頃の肖像と後年の肖像を見比べると、単なるデザイン違いというより、長い治世そのものが刻まれているようにも見えてきます。
次にウィルヘルミナの金貨を見るときは、どの時代の姿なのかを意識しながら眺めてみると、また少し違った魅力が見えてくるかもしれません。