紀元前54年以降
スキタイ・トラキア紀元前54年以降 スキタイ・トラキア コソン 1スターテル金貨 8.30g
NGC | MS 5/5-5/5
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コインの特徴
時代の境界に刻まれた謎 ― コソン王のスターテル金貨
紀元前54年以降に、スキタイ文化圏のスキタイ(黒海北方地方地域)およびトラキア(現在のブルガリア)で発行されたスターテル金貨は、当時のヨーロッパ大陸の状況をイメージできる貴重な金貨です。「スキタイ文化圏」とは、スキタイ人を中心とする遊牧民文化が広く浸透した、黒海北方から中央アジアにかけての広大な地理的・文化的エリアを指します。
ローマ史の英雄ユリウス・カエサル(英語名はジュリアス・シーザー)が活躍していた時期に、ローマの国外で発行されました。ローマ国外で発行されたにもかかわらず、このスターテル金貨は非常にローマ的な意匠を備えています。表面には、2人の護衛を従える執政官が描かれています。ローマは紀元前27年に帝政へ移行しますが、当時はまだ共和政で、執政官は国家の最高位にある存在でした。護衛の1人が手にしているのは、権力の象徴であったファスケスです。ファスケスとは、木の束に斧の柄を縛り付けたもので、古代ローマの護衛リクトルが携えていたものです。
裏面には、古代ローマの象徴のひとつである鷲がデザインされています。花輪を持つ鷲の姿は、ローマ本国で発行されていたデナリウス銀貨の影響を強く感じさせます。なぜローマの国外で、これほどローマ的な金貨が発行されたのか――その理由はいまなお謎に包まれています。トラキアやスキタイの有力者が、強国ローマとの結びつきを誇示するために発行したという説が有力ですが、コインに刻まれた「コソン」という名の王の実態も、ほとんど分かっていません。
また一説によれば、中央に立つ人物は執政官ではなく、ローマの政治家ブルータスであるともいわれています。「コソン」はトラキア系民族の王であり、ユリウス・カエサルを暗殺したブルータスが、ローマ国外の王の後援を受けていた証ではないか、という説です。ユリウス・カエサルは紀元前44年にブルータスとその仲間によって暗殺されています。
もしこの金貨にまつわる伝説が真実であるならば、カエサル暗殺の背後にローマ国外の有力者が関与していた可能性も否定できません。一方で、ブルータスは財務官や法務官を歴任しているものの、執政官の経験はなく、この説は史実と矛盾すると指摘する声もあります。いずれにしても、このスターテル金貨は、歴史好きを大いに刺激する謎とロマンを今に伝える一枚といえるでしょう。
ポピュレーション
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コインに見える古代ローマの権力
今回ご紹介する1スターテル金貨が発行されたのは、紀元前54年以降といわれています。
金貨の表面にデザインされているのは、古代ローマの執政官と2人の護衛(リクトル)。
中央に立つ執政官を、2人のリクトルが守っている構図です。
リクトルは古代ローマ時代の官僚で、命令権を持つ執政官を先導し、
職務執行の便宜を図る役割を担っていました。
執政官には通常12名のリクトルが任命され、
彼らは権力の象徴であるファスケスを左肩に担ぎます。
ファスケスとは、斧の刃を木の棒の束に差し込んだ束棒のこと。
このコインに描かれたリクトルも、ファスケスを手にしている様子が確認できます。
ファスケスは、裏面にデザインされた鷲とともに、
古代ローマにおける権力の象徴でした。
つまりコソンのスターテル金貨には、
古代ローマの支配と威信を示すシンボルが明確に刻まれているのです。
ローマの文化圏外で発行された金貨としては、非常に高い技術で造られている点も注目に値します。
共和政時代のローマの影響力が、想像以上に広範囲へ及んでいたことを示す
重要な証拠と見る研究者もいます。
コインに見える古代ギリシアの影響
ここまでを見ると、まるで古代ローマ本国で発行された金貨のようにも感じられます。
しかし、表面に刻まれている「ΚΟΣΩΝ(コソン)」の文字はギリシア語です。
コソンのスターテル金貨は、現在のルーマニアやブルガリア、
そしてギリシア北部で発行されたと考えられています。
これらの地域が、当時ギリシアのヘレニズム文化の強い影響下にあったことを示す、
非常に象徴的な要素といえるでしょう。
古代ローマは共和政から帝政への過渡期だった
この金貨が発行された紀元前1世紀半ばは、地中海世界に激動の風が吹き荒れていた時代でした。
ローマはすでに大国として地中海の覇権を握っていましたが、長く続いた共和政が揺らぎはじめ、
ユリウス・カエサルがルビコン川を渡るか否かという、まさに歴史の転換点にありました。
一方、ドナウ川流域に暮らしていたダキアやトラキアの諸民族は、
ローマから「蛮族」と呼ばれつつも、その強い影響下に置かれていました。
交易や軍事同盟を通じて両者は密接な関係を築きつつあり、
コソンのスターテル金貨も、こうした国際情勢を背景に
ローマ本土の外で発行されたと考えられています。
「コソン」とは誰か?歴史ファンを惹きつける古代のミステリー
この金貨に刻まれた「コソン」が、いったい何者であったのかについては、 現在も定説が存在しません。 ある説ではトラキア系民族の王であったとされ、 また別の説では、ユリウス・カエサル暗殺に関わったブルータスと 密接な関係を持つ同盟者の名だともいわれています。 つまりコソンのスターテル金貨は、 ローマの内乱とバルカン地方の有力者たちによる 政治的駆け引きの産物だった可能性が高いのです。
ローマ帝国の領土を史上最大にしたダキア戦役
コソンのスターテル金貨を発行したダキア地方は、
のちにローマ史の中で非常に重要な役割を果たすことになります。
その大きな要因のひとつが、ダキア地方に眠る豊富な金資源でした。
ローマは紀元前27年、アウグストゥスが実質的な初代皇帝となり、
共和政から帝政へと移行します。
当初、歴代皇帝はダキアの王たちと比較的友好的な関係を保っていましたが、
軍人皇帝として知られるトライアヌス帝の時代に緊張が高まりました。
ダキア王がローマ帝国の圧力に反抗したためです。
2世紀に入って間もなくダキアはローマに反旗を翻しますが、
西暦106年、トライアヌス帝によって完全に征服され、
ローマ帝国の属州となりました。
このダキア併合によって、ローマ帝国は史上最大の版図に到達します。
コソンのスターテル金貨は、そうした大転換へと向かう
重要な前史を今に伝える、極めて示唆に富んだ金貨といえるでしょう。
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今も多くの謎が残る点こそ、このコインのいちばんの魅力。 状態の良さも際立っており、コレクションとしての完成度も非常に高い一枚です。
2000年以上前の世界に思いを馳せながら、歴史・ロマン・ミステリーを楽しみたい方に、ぜひ手に取っていただきたい金貨です。
スタッフT|40代後半・男性(コイン歴6年)