聖人の事情を知ればより西洋史を楽しめる!主要な聖人たちのエピソード

聖人の事情を知ればより西洋史を楽しめる!主要な聖人たちのエピソード

 

スタッフのひとことナビ
Mina Yoshii(コイン歴2年)

今回は、コインや絵画に描かれている聖人たちが、どんな「持ち物」とともに表されているのかに目を向けていくコラムなんですね。

何気なく見ていた人物のそばにある小さなアイテムにも、それぞれ意味や物語が込められていると知ると、これまでとは少し違った楽しみ方ができそうです。

見慣れた図像の中にも、気づいていなかった手がかりが隠れているかもしれません。
そんなところにも意識を向けながら、読み進めてみてください。

 

 

西洋のコインで目にするさまざまな聖人たち。
絵画に描かれた聖人には、彼らにまつわるエピソードや持ち物が一緒に描かれることが大半です。聖人のアイデンティティともいえるこれらのアイテムは、「アトリビュート」と呼ばれています。主要な聖人のアトリビュートを覚えておくと、西洋美術や歴史がより楽しくなります。

カトリック教会を国教とする国々では、聖母マリアやイエス・キリストへの信仰とともに、聖人信仰がさかん。
知ればより楽しい聖人事情をご紹介します。

 

 

聖人の持ち物を見れば名前がわかる!各聖人のシンボル

聖ジョージで有名なイギリスのコイン。聖ジョージはイギリスの守護聖人で、ドラゴン退治をする騎士として描かれています。(画像出典:Adobe Stock)。

コインの世界で有名なイギリスの守護聖人ジョージは、ドラゴンを退治する姿が象徴となっています。
各聖人は、それと見分けられるようにシンボルとともに描かれます。アトリビュートと呼ばれるこのシンボル、覚えておくと西洋美術を楽しむことができます。
いくつかの例をご紹介しましょう。

 

 

聖ステファノ:石

頭の上に石を乗せている聖ステファノ。投石によって殉教したことに由来します(画像出典:Wikimedia Commons)。

 

 

聖ペトロ:鍵

鍵を手にした聖ペトロ(画像出典:Wikimedia Commons)。

バチカンの大聖堂は「サン・ピエトロ大聖堂」と呼ばれています。「サン・ピエトロ」は「聖ペトロ」のイタリア語読み。彼はイエス・キリストの一番弟子として、「天国の鍵」を託されました。そのため鍵を手にした姿で描かれます。

彼は元々漁夫であったため、漁師の守護聖人であるほか、鍵を作る職人、門番、靴修理人(布教のため多くの旅をしたため)を守護しています。

 

 

聖ヨハネ(使徒):杯

杯を手にする聖ヨハネ(画像出典:Wikimedia Commons)。

イエス・キリストの12人の弟子のうち、もっとも若く美しいといわれる聖ヨハネ。
聖ヨハネは毒入りの飲み物を強要された際、祈りによって毒をヘビに変えたというエピソードがあることから杯とともに描かれることがよくあります。弟子たちの中では教養のある人物であったため、作家、神学者、芸術家、紙関連の業者の守護聖人になっています。

聖ヨハネはイエス・キリストにもっとも愛された弟子であり、絵画の『最後の晩餐』ではイエスの胸の中に身を投げかけている姿がよく見かけられます。このため「友情」の守護聖人でもあります。

 

ジョットが描いた『最後の晩餐』。イエス・キリストに身を寄せているのが聖ヨハネ(画像出典:Wikimedia Commons)。

 

 

聖ヨハネ(洗礼者):毛皮

守護聖人である洗礼者ヨハネがデザインされたフィレンツェのフローリン金貨(画像出典:Adobe Stock)。

聖ヨハネと呼ばれる聖人はもう1人存在します。イエス・キリストに洗礼を施したことから、「洗礼者ヨハネ」と呼ばれています。

荒野で修業したといわれる聖ヨハネは、「ラクダの毛の衣をまとい、野蜜とイナゴを食べて」いた聖人。原始的な生活を実践した清廉潔白な宗教者として、フィレンツェでは絶大な人気がありました。

安定した三角形の構図が愛されたルネサンス時代、聖母子とともに、子どもの洗礼者ヨハネが描かれた作品が増えました。ラファエロ作『美しき女庭師』はその代表作です。

 

ラファエロ作『美しき女庭師』(画像出典:Wikimedia Commons

 

 

聖マルコ:ライオン

ライオンとともに描かれる守護聖人・聖マルコ(画像出典:Wikimedia Commons)。

ヴェネツィアの守護聖人として有名な聖マルコは、ドゥカート金貨に描かれることがあります。シンボルはライオン。これは新約聖書の「マルコによる福音書」の冒頭で現れる「荒野に響く声」が、ライオンの咆哮を思わせることに由来します。

また福音書の書き手であったため、弁護士や公証人など頭脳を必要とする職業の守護聖人になっています。

 

 

大天使ミカエル:剣

剣を持つ大天使ミカエル(画像出典:Adobe Stock)。

聖人だけではなく、天使も守護聖人となる例があります。フランスやイギリスのエンジェル金貨に描かれているのが、大天使ミカエル。聖母マリアに受胎告知を行った大天使ガブリエルとともに、西洋では絶大な人気を持っています。

ヨハネの黙示録では、仲間の天使を導いてドラゴンと戦うというエピソードがあることから、聖ジョージと並んで軍人の守護聖人になっています。フランス、ドイツ、ウクライナを守護する勇壮な天使です。

 

 

聖ラウレンティヌス:網

網を手にした聖ラウレンティヌス(画像出典:Wikimedia Commons)。

生きながら網の上で焼かれて殉教した聖ラウレンティヌス。彼は網焼き用の網を手にしています。このエピソードから、お惣菜屋さん、消防士を守護するほか、教会の書籍管理をしていたことから本屋さんの守護聖人にもなっています。

 

 

聖アポロニア:歯

歯を手にする聖女・聖アポロニア(画像出典:Wikimedia Commons)。

あまりメジャーではないのですが、歯を持っている聖女をご紹介します。彼女は聖アポロニア。歯を抜かれるという拷問を受けて殉教したため、彼女のシンボルは歯。もちろん、歯医者さんの守護聖人です。

 

 

聖人信仰とともに生まれた聖遺物や宝物

庶民の人気を集める聖人をビジネスとして利用する現象が中世に起こりました。それが聖遺物信仰です。真贋論争が絶えない聖遺物ですが、教会の権威を高め、信者を増やす手段として大流行しました。
いったいどんな聖遺物があるのでしょうか。

 

ナポリのドゥオモにある聖ジェンナーロの宝物。王侯貴族の信仰を受けて王室並みの宝物が寄進されてきました(画像:PRIME MINT)。

 

 

各地に残る聖人の「遺産」

カトリック教会の中を見学していると、「聖遺物」に遭遇することがあります。聖人の骨をはじめ、体の一部から持ち物まで、ありとあらゆるものが存在しています。科学的な真贋はさておき、ときには笑ってしまうような聖遺物も登場します。

イエス・キリストが最後の晩餐で使ったお皿
イエス・キリストのゆりかごの一部であった藁
イエス・キリストが縛り付けられていた柱
イエス・キリストの血
イエス・キリストの亡骸を包みその姿を映したといわれる聖骸布
聖母マリアの家の鍵
ユダがイエス・キリストを裏切ったときに受け取った貨幣

中世にはこうした聖遺物を扱う悪徳商人がいたことがわかっていますが、偽物かもしれないとわかっていても教会で大切に保管されています。

 

ローマのクオ・ヴァディス教会に残る聖遺物「イエス・キリストの足跡」(画像:PRIME MINT)。

 

ローマのサンタ・プラッセーデ教会にある「イエス・キリストが縛られていた柱の一部」(画像:PRIME MINT)。

 

 

王侯貴族が聖人に寄進して積もった宝物

聖人への信仰が厚いのは王侯貴族も同じ。歴代の富裕層が聖人に寄進をしてきたため、山のようなお宝を持っている聖人がいます。

その代表格がナポリの守護聖人ジェンナーロ。ナポリのドゥオモの宝物館に行くと、英国王室も青くなりそうな豪奢な宝飾品がずらりと並んでいます。

噂によると、マフィアからも篤く信仰されているため、さすがの彼らも聖ジェンナーロのお宝にだけは手を出さないのだとか。

 

ナポリの守護聖人ジェンナーロ(画像:PRIME MINT)。

このように豪華な聖人関連のアイテムを楽しめるのも、キリスト教文化を知る上でよい刺激になるのではないでしょうか。

 

 

スタッフのひとことコメント
A.Harada(コイン歴3年)

聖人たちの姿に添えられた一つひとつのモチーフに、それぞれの人生や出来事が重なっていることが、静かに伝わってくる内容でした。

これまで何となく眺めていたコインや絵画も、少し意識を向けるだけで、その人物が誰なのか、どんな背景を持っているのかが見えてくるように感じられますね。

次に聖人の姿を目にしたときには、その手にしているものや周囲に描かれたものに目を留めてみると、また違った発見がありそうです。
小さな手がかりから広がっていく楽しさを、ふと感じられる場面があるかもしれませんね。

 

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