アケメネス朝ペルシアのダリク金貨「弓と槍を持って走る王」

アケメネス朝ペルシアのダリク金貨「弓と槍を持って走る王」

 

スタッフのひとことナビ
A.Harada(コイン歴3年)

今回は、はるか古代にさかのぼるコインのひとつ、ダリク金貨に目を向けていくコラムなんですね。

コインに刻まれた小さな図像の中に、当時の技術や国の姿、そして人の営みまでが重なっていると思うと、いつものコインとはまた違った見え方になってきそうです。

ひとつのデザインや質感から、どこまで想像が広がっていくのか。
そんな感覚も楽しみながら、ゆっくりと読み進めてみてください。

 

 

ダリク金貨とはアケメネス朝ペルシア(紀元前550年~紀元前330年)で発行された金貨です。
2000年以上前のコインが現代まで残っているという点がアンティークコインの面白いところで、しかも、そのコインを買って自分のものにできます。
「弓と槍を持って走る王」には世界初のあるものが刻まれており、このコインをさらに有名にしている理由の1つです。

 

紀元前550~330年 アケメネス朝ペルシャ帝国 ダリク金貨 弓と槍を持って走る王 8.26g(画像:PRIME MINT)

 

 

ダリク金貨のデザイン

表側を見ると、誰かが弓と槍を持って走っている、または歩いている様子が描かれています。
タイトルの通り王なのですが、実際は王なのか不明で、先祖を描いた可能性もあります。
弓と槍を同時に持っている理由は、当時の主力兵装がこれら2つだったからでしょう。

この金貨の際立った特徴は、世界で初めて人間の形をデザイン化したという点です。
世界初というのは、どの分野でも注目を集めるもので、アンティークコインも例外ではありません。
このため、より高品質なコインを求めて探し回るコレクターが世界中にいます。

その一方、裏側は何もないと言いますか、長方形のような形があるだけです。
これはデザインでなく、土台の跡です。
土台と刻印(金型)の間に金を置いて、ハンマーなどで打ち付けてデザインを表現しました。

 

 

コインごとにデザインが異なる

古代コインの特徴の1つに、コイン1枚1枚のデザインが少しずつ異なる点が挙げられます。
現代のコインはコンピューターで制御され、寸分の違いなくデザインが刻印されます。
当時はコンピューターは存在せず、手彫りで刻印を作ってハンマーで叩くという方法で作りました。

職人ごとにデザインが少しずつ異なり、時代が移って世代交代すればさらにデザインが変わってきます。
インターネットでダリク金貨を検索して比較すると、コインの形だけでなく表情や顔の大きさもコインごとに異なることが分かります。
自分の最もお気に入りのデザインを見つけるというのも、古代コインの楽しみ方の1つです。

 

 

ダリク金貨の品位(純度)

ダリク金貨は金の品位(純度)が95%前後以上あり、とても高いことで知られています。

19世紀のフランスやイギリスの金貨の場合、品位は90%~91.7%くらいでした。
金は金属としては柔らかく、品位をあまりに高くしすぎると摩耗しやすいという欠点があります。
そこで、金以外の金属(銀や銅)を混ぜることにより、摩耗を遅らせました。

現存しているダリク金貨は一般的に摩耗しているのですが、その理由として、2000年というあまりに長い歴史に加えて品位が100%に近いという点が挙げられるでしょう。

 

 

アケメネス朝ペルシアの版図とダリク金貨の用途

(引用元:Wikipedia/PRIME MINTにて加工

地図でアケメネス朝ペルシアの最大版図を見ると、巨大な国だったことがわかります。
西側はバルカン半島周辺、南側はエジプト、そして東側は現在のパキスタンまでを領土としていました。
これだけ広大な領土を持っていると、外国との交易が盛んだっただろうと予想できます。
ダリク金貨は交易の決済通貨として使用された模様です。

また、ダリク金貨の重要な使用方法として、傭兵の給料があります。
当時の歴史書によると、傭兵を1か月間雇う場合の給料はダリク金貨1枚でした。
特定の目的のために1万人の傭兵を雇ったという記述もあり、この傭兵を維持するだけで毎月1万枚のダリク金貨が必要だったということです。
実際には他の場所にも多数の傭兵がいた可能性があり、ダリク金貨の必要枚数はさらに膨れ上がります。
金の産出量と金貨の製造能力のいずれもが高水準だったという意味であり、アケメネス朝ペルシアの発展度合いがよくわかります。

さらに、当時のギリシャ世界はポリス(都市国家)が力をつけていて、アケメネス朝ペルシアにとって邪魔な存在でした。
そこで、ダリク金貨を使って特定のポリスに資金援助を行い対立を深めさせるなど、ポリス間の抗争を画策して、ギリシャ世界の武力の強大化を防ぐ用途にも使われました。

 

 

ダリク金貨の価格

2000年前といえばはるか昔であり、ダリク金貨の価格は高額だと予想する方は少なくないでしょう。
しかし、実際には何百万円~何千万円もするわけではなく、金のアンティークコインとしては比較的手が届きやすい価格です。
金なので高額ではあるものの比較的お買い得な理由は、当時の流通量がすさまじく多くて現在まで多くの金貨が伝えられているからです。

摩耗がみられるVF(美品)のコインでも良いという基準でコインを探すと、より安価な価格で購入できます。
摩耗しているということは多くの人の手に渡って流通したということであり、傭兵の手から商人に渡ったのだろうかと空想を巡らせるのも楽しいでしょう。
逆に、EF(極美品)など摩耗が少ないコインがほしいという場合、なかなか見つからないものですが、その過程こそが理想の1枚に出会う楽しみでもあります。
製造直後に壺に保管されてそのまま1000年以上忘れ去られていた、などという場合、現代でも高グレードのコインとして手にすることができます。

古代コインなのに予算に合わせてグレードを自由に選べるのも、ダリク金貨の特徴といえるでしょう。

 

 

ダリク金貨をより深く理解するために

ダリク金貨をより深く理解するために、知っておきたい情報を2つ紹介します。

 

 

リディア王国のコイン

紀元前610~546年 リディア王国 エレクトラム(天然金銀合金)製 1/3スターテル金貨 4.73g(画像:PRIME MINT)

アケメネス朝ペルシアの金貨を語る上で、リディア王国(紀元前7世紀~紀元前546年)のコインも重要です。

 

(引用元:Wikipedia/PRIME MINTにて加工)

リディア王国があったのは上の地図内の枠で囲った部分で、現在のトルコにありました。
リディア王国で世界最初のコイン(写真)が製造され、これはエレクトラム貨と呼ばれています。
エレクトラム貨とは金と銀の自然合金で、リディア領内の川で採掘されました。
その後、金の精錬技術が発達して、金貨を製造しています。
アケメネス朝ペルシアはリディアを征服した後、リディアの技術を用いて金貨を製造したという流れです。

 

 

シグロス銀貨

紀元前485~420年 アケメネス朝ペルシャ帝国 ダーラヤワウシュ1世 シグロス銀貨 5.52g(画像出典:日本コインオークション

アケメネス朝ペルシアでは、金貨だけでなく銀貨も製造されました。
シグロス銀貨と呼ばれており、デザインはダリク金貨と同じです。
同じといっても、職人や時代によってデザインが少しずつ異なるという点は、ダリク金貨と同様です。
当時、シグロス銀貨20枚でダリク金貨1枚と同じ価値だったとされており、通貨の交換価値の分かりやすさから活発に使用されたといわれています。

交易において、金貨や銀貨を受け取る側で気になるのは品位(純度)です。
金貨といっても品位が低かったら、価値を割り引いて考えなければなりません。
ダリク金貨やシグロス銀貨の品位は95%前後以上とされており、きわめて品位が高いので信用度も高かったことでしょう。
紀元前2000年以上前の時点で、既に高度な精錬技術が確立していたということです。

 

 

2000年以上前のコインでロマンを感じよう

アケメネス朝ペルシアの金貨は今から2000年以上前に作られ、流通しました。
兵士や商人の手を渡り、どこかの時点でコレクターの収蔵品となって現在に至ります。
このコインを手にすることは、すなわち2000年にわたる歴史を手にすることと同じです。
コインは何も話しませんが、コインの傷や摩耗が流通の痕跡を物語っています。
もしかすると、今買おうとしているコインは、アケメネス朝ペルシアがギリシャに介入するために、ポリス(ギリシャの都市国家)に渡した金貨かもしれません。
ダリク金貨を手にして、古代の歴史に浸ってみてはいかがでしょうか。

 

 

スタッフのひとことコメント
Mina Yoshii(コイン歴2年)

2000年以上という長い時間を経て残ってきたコインに、これだけ多くの要素が詰まっていることに、あらためて驚かされる内容でした。

かつて実際に使われていた痕跡や、わずかな違いとして残る表情の揺らぎに目を向けると、1枚1枚がまったく別の存在のようにも感じられますね。

次に古代コインを手に取る機会があれば、その背景にある時間や人の動きを、少しだけ想像してみたくなりそうです。
静かな中にも広がりのある魅力が、ふと感じられるかもしれません。

 

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