ラムダカットの特徴あるデザインと歴史|神聖ローマ帝国で作られた金貨

ラムダカットの特徴あるデザインと歴史|神聖ローマ帝国で作られた金貨

 

スタッフのひとことナビ
A.Harada(コイン歴3年)

今回は、神聖ローマ帝国の自由都市として栄えたニュルンベルクで生まれた「ラムダカット」に目を向けるコラムなんですね。
地球の上に立つ羊や、そっと忍ばせた年号の仕掛けなど、ひと目で心をつかまれる意匠の背景には、当時の町の空気や人の往来が感じられるようです。

額面の多さや作られ方にも、少し意外な物語がありそうですね。
そんな視点を胸に、ゆっくり読み進めてみてください。

 

 

ラムダカットはコレクターに人気の金貨で、およそ300年前の神聖ローマ帝国(現在のドイツ)のニュルンベルクで発行されました。
額面は10種類もあり、形状は円形と四角(クリッペ)の2種類があります。
デザインに込められた意味は何か、そして、どのような経緯で多くの額面が作られたのか、解説します。

 

1700年刻印 ドイツ ニュルンベルク IMF ラムダカット クリッペ(四角) 1ダカット金貨 FR-1886(画像:PRIME MINT)

 

 

地球に乗る羊のデザイン

歴史的経緯の前に、コインのデザインを確認しましょう。

 

 

羊の面

1700年刻印 ドイツ ニュルンベルク IMF ラムダカット クリッペ(四角) 1ダカット金貨 FR-1886(画像:PRIME MINT)

地球の上に巨大な羊(ラム)が立っていて、旗を持っています。
きわめて漫画的な構図が採用されており、これが人気の理由の1つでしょう。

この羊はキリストを示します。
旗には「PAX」と書かれており、ラテン語で平和という意味です。
周囲の文字「TEMPORA NOSTRA PATER DONATA PACE CORONA」は、キリストが平和な時代を授けてくれるという願いを込めています。

 

1700年刻印 ドイツ ニュルンベルク IMF ラムダカット クリッペ(四角) 1ダカット金貨 FR-1886(画像:PRIME MINT)

なお、この金貨は年号が明示的に書かれておらず、隠し文字で書いてあります。

赤枠を付けた部分だけ文字が大きく、このアルファベット4文字をつなげるとMDCCです。
MDCCはローマ数字で1700年であり、なぞなぞ的な感覚で年号を示しています。

 

 

紋章の面

1700年刻印 ドイツ ニュルンベルク IMF ラムダカット クリッペ(四角) 1ダカット金貨 FR-1886(画像:PRIME MINT)

逆の面には、紋章や鳥が描かれています。

画像内の赤丸は鳩です。
コインに描かれる鳥はワシなど強い鳥が一般的ですが、ここでは平和の鳩です。
その下に、神聖ローマ帝国皇帝の紋章が2つと、ニュルンベルクの紋章があります。

コインの周囲に書かれている文字は「RESP. NORIMBERGENSIS SECVLVM NOVVM CELEBRAT」で、ニュルンベルクが新世紀を祝福するという趣旨です。

表も裏もおめでたい内容で満たされており、国家や国王の威厳を直接的に示すという内容ではありません。
一般的なコインと性質が大きく異なっている上に、隠し文字で年号を表現しており、心の余裕と遊び心が感じられます。

 

 

IMF、GFN、CGL

スラブ(コインケース)の解説部分を見ると、3文字のアルファベットが並んでいる場合があります。
「GFN」「CGL」「IMF」で、これらはニュルンベルクの当時の造幣局長の名前です。
それぞれ、コインの下部に刻印されています。

アルファベット 造幣局長名 在位
GFN Georg Friedrich Nürnberg 1677年~1716年


CGL Carl Gotteib Lauffer 1746年~1755年
IMF Johann Martin Forster 1755年~1764年

この3つのアルファベットを見れば、おおよその製造年代がわかります。
アルファベットの記載がないラムダカットもあります。

 

 

ラムダカットはどのような方法で作られたか

ニュルンベルクは、他人の金(きん)を使って金貨を作りました。

 

 

金の産地ではないが金が豊富

ニュルンベルクやその周辺は金の産地ではありません。
そこで、旅行者や貿易商が金を提供し、金細工職人がその金を元にして金貨を作る方式を採用しています。
ラムダカットは表も裏も縁起の良い内容で埋め尽くされており、人気があったからこそ可能な方法です。
金細工職人は加工賃をもらうので、作れば作るほど儲けられます。

なお、当時の欧州諸国は重商主義を採用していました。
重商主義とは「金(きん)の保有量がすなわち国富だ」という考え方で、金をいかに集めるかが重要な時代です。
金の流出は国富の低下を意味するので、自分が所有する金を使うのは得策ではありません。
自分自身の金でなく他人の金を使うことで、重商主義に沿ったビジネスを展開できました。

 

 

額面の種類が多い理由

ラムダカットには額面が10種類もあり、最大額面は5ダカット、最小額面は32分の1ダカットです。

ラムダカットの額面(単位:ダカット)
5
4
3
2
1
2分の1
4分の1
8分の1
16分の1
32分の1

ダカットとは貿易決済用の通貨単位で、神聖ローマ帝国だけでなくイタリア諸国などでも広く使われていました。
貿易決済用なので取引額は一定の大きさ以上になるはずですが、32分の1という小額面のコインがあります。
小さなコインなのでデザインも省略されており、決済用としては不自然な小ささです。

 

1700年刻印 ドイツ ニュルンベルク GFN ラムダカット 1/4ダカット金貨 FR-1890 LEGEND(画像:PRIME MINT)

上のコインは1/4ダカット金貨で、デザインが省略されている様子がわかります。
鳩の絵がなく、神聖ローマ帝国皇帝の紋章もありません。

旅行者や貿易商はさまざまで、全員が裕福だとは限らず、何とか旅行費用を工面したという旅行者もいたことでしょう。
小額面のダカットなら、金の保有量が少ない人でも金貨を持てる可能性があります。
32分の1ダカットは、そのような人々が依頼して作ったと予想できます。

以上を踏まえると、ラムダカットは為政者が国内需要等を基にして発行したのではなく、準通貨やお土産という位置付けだったことがわかります。

 

 

ニュルンベルクの地理的な特徴

Google Map of Germany
(引用元:Google Map

上の地図は現在のドイツで、印の部分がニュルンベルクです。
交通の要衝に位置しており、人の出入りが多かったと予想できます。

なお、旅行者や貿易商の発注を受けて職人がそれぞれ作ったので、発行枚数は明らかになっていません。
また、1700年の限定発行でなく、何年にもわたって作られました。

コインの刻印は1700年ですが、各コインについて正確な製作年は不明です。

一般的に、神聖ローマ帝国の金貨は種類が多い割に生産量は少なく、取引価格がきわめて高額な例がいくつも見られます。

しかし、ラムダカットの発行枚数は多いので、比較的お手頃な価格で買えるのがメリットです。

コインのデザインを眺めながら、当時の歴史に思いを馳せるのもよいでしょう。

 

 

職人の町、ニュルンベルク

ニュルンベルクは職人が数多く集まる町でした。
靴屋、仕立屋、肉屋など技術を要する職業はいくつもあり、その中の一つに金細工がありました。
ニュルンベルクの金細工マイスターの人数の変遷を見ると、以下の通りです。

年号 人数 (単位:人)
1550年 89
1580年 104
1620年 132
1650年 64
1710年 77
1740年 61
1790年 51
1800年 50

長年にわたって、常に2桁の人数の金細工マイスターを擁しています。
マイスターの配下には大勢の職人がいたと予想できるので、金細工に関連する職人の数はとても多かったことでしょう。

 

職人たちが金貨を製造している様子(画像引用元:Die MUNZSTATTE HALL in TIROL)。

上の絵は、当時の金貨製造の様子です。
チロル地方(現在のオーストリアやイタリア)の絵ですが、地理的に近いニュルンベルクでも類似の方法だったと考えられます。

 

 

全種類の額面を収集できるかも

コイン収集の醍醐味の一つに、特定のコインについて全種類を集めることがあります。
ラムダカットでいえば、すべての額面の金貨を集めれば目標の達成です。
造幣局長名ごとに全種類を揃えるという選択肢もあるでしょう。
円形だけでなく四角(クリッペ)もあるので、全種類集めるのは時間がかかるかもしれません。
時間がかかるからこそやりがいがある、というのがコイン収集の世界です。

ラムダカット以外にもいろいろな種類のコインに興味がある場合は、「これだ!」と思える1枚を選んで買うのも面白いでしょう。

 

 

スタッフのひとことコメント
Mina Yoshii(コイン歴2年)

読み終えてみると、ラムダカットは単なる金貨というより、当時のニュルンベルクという町そのものを映した一枚のようにも感じられますね。

歴史的な金貨というと威厳があって近寄りがたいイメージがありましたが、ラムダカットの『平和への願い』や『隠し文字の遊び心』を知ると、当時の人々をぐっと身近に感じられます。贈り物として人気だったというのも頷けますね。

 

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