コインの中で生き続ける!時代を超えた美しい女性たちの肖像
今回は、コインに刻まれた女性たちの肖像を通して、歴史をたどっていくコラムなんですね。
コインの世界というと男性君主の印象が強いですが、その中には、時代を動かした強さと気品を兼ね備えた女性たちの姿もしっかり残されています。
ただ美しいだけではなく、それぞれの肖像に「王としてどう見られたいか」という意思まで感じられるのが興味深いですね。
古代から近代へ、時代ごとに変わっていく女性君主たちの空気感も含めて、ゆっくり楽しめそうな内容です。
古代から現代にいたるコインの多くには、時の権力者の肖像が刻まれています。その顔の大半は男性であり、女性といえば女神として様式化されたデザインが目立ちます。
しかし歴史をひもとけば、才色兼備の女性たちが自らの肖像をコインに刻んだ例も少なくありません。男性たちと互角に渡り合い、時代を切り開いた彼女たちの横顔。そのなかには、王朝の正統性、権力への意志が静かに宿っています。
古代から現代まで、コインを彩った美しい女性たちについて解説します。
❖古代:神話的な美と強さを持つ女性たち
――原始、女性は太陽であった。
そう語ったのは、日本の女性運動の先駆者、平塚らいてうでした。その言葉を地でいく輝きを放った女性たちが、古代のコインにも存在します。権力の中枢に立ち、時代を動かした3人の横顔をご紹介します。

ローマ国立博物館に残る古代のフレスコ画。生き生きとした女性が印象的です(撮影:PRIME MINT)。
伝説の美女のリアルな姿:クレオパトラ7世

ミケランジェロがイメージして描いたクレオパトラ(画像出典:Wikimedia Commons)
エジプトのプトレマイオス朝最後の女王として、映画や小説にもよく登場するクレオパトラ7世。ユリウス・カエサルやマルクス・アントニウスなど、ローマの英雄たちに愛されただけではなく、女王として親政を行うほど教養に恵まれていました。
同時代の歴史家プルタルコスによれば「容姿、甘美な声、魅力的な会話」によって、あらゆる人を虜にしたのだとか。
エジプトの女王といえばおかっぱ頭を思い浮かべますが、プトレマイオス朝の始祖はアレクサンダー大王の部下でした。そのため、テトラドラクマ銀貨などのクレオパトラもギリシャ風の優美な髪型で描かれています。
ローマ帝国を震撼させた砂漠の女王:ゼノビア

パルミラの女王ゼノビアが描かれたアントニニアヌス型の銀貨。「AVG(アウグスタ)」と書かれており、ローマ皇帝の逆鱗に触れることに(画像出典:Wikimedia Commons)。
3世紀後半、シリアのオアシス国家パルミラの女王として活躍したのがゼノビアです。王妃であったゼノビアは、夫の死後、息子の後見として実権を握り女王を名乗りました。当時のローマ帝国は蛮族の侵入に悩まされていた時代、ゼノビアはこれを利用し、パルミラの完全な独立を目指します。
ゼノビアの美貌と深い教養は、敵国ローマでも語り草になるほどでした。パルミラをローマ帝国東方属州の中心として育てたほか、エジプトや小アジアに軍を送って版図拡大に成功するなど、ローマ帝国を恐れさせた女傑です。
しかし、ゼノビアがローマ帝国の正式な称号である「アウグスタ(皇妃)」を名乗るに至って、当時の皇帝アウレリアヌスはパルミラ征伐を敢行します。「アウグストゥス」「アウグスタ」という称号は、ローマ帝国の正統な皇帝とその一族しか名乗れない神聖なものであったためです。
ゼノビアは捕虜となり、自殺したともローマの近郊で晩年を送ったとも伝えられています。
❖中世:王冠を戴く女性たち
混迷を極めた中世に登場した女性君主たち。コインの世界で主役となった彼女たち、決してお飾りに甘んじず、真に国を統べる強い意志と知性を持っていました。
華やかさとパワーを併せ持つ女性たちをご紹介します。

エリザベス朝と呼ばれる黄金時代に君臨したイングランドのエリザベス1世(画像出典:Wikimedia Commons)
スペインを「陽の沈まぬ帝国へ」と導く:イサベル1世

カスティーリャ女王・イサベル1世 (画像出典:Wikimedia Commons)
「スペイン」という大国の誕生を語るとき、欠かせない名前がイサベル1世です。カスティーリャ王国の女王として、隣国アラゴン王フェルナンド2世と結婚した彼女は、分断されていたイベリア半島の統一へと道を開きました。
信仰篤い二人は「カトリック両王」と称えられ、コロンブスの大西洋航海を支援して新大陸への扉を開きます。子どもたちをハプスブルク家の公子女と結婚させたことが縁となり、孫のカルロス1世の時代にはついに「陽の沈まぬ帝国」が現実となりました。
そのイサベルの横顔を刻んだダブル・エクセレンテ金貨には、夫フェルナンドと向かい合うように並んだ二人の肖像が刻まれています。
「国家と結婚」!イングランドが誇るヴァージン・クイーン:エリザベス1世

イングランド女王・エリザベス1世 (画像出典:Wikimedia commons)
国民から「よき女王ベス」と親しまれ、イングランドを黄金時代へと導いたエリザベス1世。父ヘンリー8世が築いた英国国教会の地盤を固め、卓越した外交手腕で小国だったイングランドを欧州の主役へと押し上げました。
彼女を語る上で欠かせないのが、スペイン王フェリペ2世ら列強君主からの求婚をすべて退け、一生独身を貫いたエピソードです。「私は国家と結婚した」と言い切り、自らを聖なる「処女女王」として神格化させた戦略は、今なお語り継がれる伝説となっています。
クラウン金貨をはじめさまざまなコインに描かれたエリザベス1世。王冠を戴く横顔には、大国の女王としての矜持が感じられます。
❖近代:現在も世界を魅了する女性君主たち
近代の幕開けとともに、コインの役割は「権力の誇示」から「国家の信頼の証」へと変わっていきました。日本でも絶大な知名度を誇る気高き女性君主たちが描かれたコインは、高い人気を誇ります。
とくに人気のある女性君主たちをご紹介します。

即位を告げられる若き日のヴィクトリア女王。小柄で魅力的な容姿であったと伝えられています(画像出典:Wikimedia Commons)。
列強と渡り合った女性君主:マリア・テレジア

若いころのマリア・テレジア(画像出典:Wikimedia Commons)
オーストリア大公であり、ボヘミア・ハンガリーの女王、そして神聖ローマ帝国の妃であったマリア・テレジア。実質的に彼女が親政を行っていたことから「女帝」と呼ばれています。
16人もの子供を産みながら大帝国を統治し、プロイセン王フリードリヒ2世と生涯にわたって互角に渡り合いました。軍制の改革を行ったほか、女性の視点から、教育や医療の改善を行った名君でした。
子どもたちの多くはヨーロッパの王室と縁組しています。なかでも有名なのが、フランス王ルイ16世の妃となったマリー・アントワネットです。
ハプスブルク家と帝国の立て直しに貢献したマリア・テレジアは、ターレル銀貨をはじめとするコインのなかで、母性を感じさせるふくよかな姿を見せています。
大英帝国の栄光の象徴:ヴィクトリア女王

即位当時のヴィクトリア女王(画像出典:Wikimedia Commons)
産業革命によって豊かになった19世紀のイギリスを、64年の長きにわたって統治したヴィクトリア女王。インド皇帝も兼任し、七つの海を支配した大英帝国の象徴として、国民に深く敬愛されました。
私生活においても、夫のアルバートとともに理想的な家庭を築き、9人の子どもに恵まれます。子どもたちが欧州各国の王室と縁組したため、ヨーロッパの祖母といわれる存在になりました。
そんなヴィクトリアも即位当時は18歳。小柄で華奢な王女の初々しい姿が、ヤングヘッドと呼ばれるコインに刻まれています。
不屈の精神で国民を支えた「オランダの母」:ウィルヘルミナ女王

オランダ女王・ウィルヘルミナ(画像出典:Wikimedia Commons)
可憐な美少女の時代から混迷の時代を生き抜いた強い女王としての肖像をコインに残したのが、オランダのウィルヘルミナ女王です。即位時、女王はわずか10歳。あどけない肖像からは想像もつかないほど、後には2度の世界大戦という荒波から国を守り抜く、不屈の闘志を発揮します。
母エマ王太后の導きのもと、強い義務感を持って君主の道を歩んだウィルヘルミナ女王。第2次世界大戦でドイツの占領を許した際は、ロンドンへ逃れラジオを通じて国民を鼓舞し続けました。その振る舞いは高く評価され、戦後、国民からの熱狂的な歓迎をもって迎えられることとなります。
美しいだけでなく、国民と運命を共にする覚悟を見せた強靭な君主として、今もなおオランダ国民の心に深く刻まれています。
全世界の人々の記憶に残る気品ある女王:エリザベス2世

25歳で即位したエリザベス2世(画像出典:Wikimedia Commons)
2022年、96歳の天寿を全うしたイギリスの女王エリザベス2世。イギリス史上最長となる70年余の在位期間、最晩年まで公務に身を捧げたその姿は、今なお世界中の人々の心に深く刻まれています。
25歳で即位した際には、歴史上初めて、戴冠式の様子がテレビ中継されました。女王にふさわしい品格と立ち居振る舞いは、多くの人に感銘を与えました。
エリザベス2世は歴史上最も多くのコインにデザインされた君主であり、いずれのコインも高い人気を誇ります。ほっそりと優美なファーストポートレートから、貫禄のある最後の肖像まで全5種類。その変遷から、女王の人生をたどることができます。
❖最後に
男性たちの活躍が当たり前だった時代に、性別を凌駕して活躍した女性たちがいました。
堅実に、そして果敢に、時代や環境に即してしなやかにたくましく歴史に名を残した女性たち。
彼女たちの姿を刻んだコインから、贅沢な歴史の旅を楽しんでみてください。
同じ「女性の肖像」でも、そこに込められているものが時代によって大きく違っていて、とても印象に残りました。
クレオパトラやゼノビアには神話のような力強さがあり、エリザベス1世には国家そのものを背負う覚悟があり、近代の女王たちには国民を支える静かな威厳が感じられますね。
コインという小さな世界の中に、それぞれの時代の理想像や権威のあり方まで刻まれていると思うと、見方も少し変わってきます。
次に女性の肖像が描かれたコインを見るときは、その美しさだけでなく、どんな時代を生き抜いた人物なのかにも、自然と目が向いてしまいそうですね。